区役所や公園の駐車場開放で対応へ
◆市民98%が「満足」
日付が変わった午前0時過ぎ、福岡市早良区の清掃会社「石橋商会」から、ごみ収集車が次々と出発していった。作業員は車両後方のマイクを通じて小声でやり取りしながら、ごみ袋を収集車に詰め込んでいく。
1時間ほど後、収集車はコンビニ店へ立ち寄った。駐車場代の代わりに食料を買い込み、エンジンを止めた車内で体を休めた石橋正也業務課長(34)は「もう少しゆっくり休める環境があればありがたい」とこぼす。
市環境局によると、政令市全域で家庭ごみを夜間に戸別収集するのは福岡市だけだという。1950年代以降、渋滞を避けるために深夜から作業を始める形が定着した。人の目による犯罪の抑止効果もあり、カラスに荒らされる被害も減らせる。市の調査では約98%の市民が満足していると回答し、夜間収集は福岡の暮らしに根づいてきた。
◆困り果てて
ただ、業者に注がれる目は厳しい。委託業者などでつくる市環境事業協会によると、「コンビニ店の駐車場が占領されている」といった苦情が増加傾向にある。
160万人超が暮らす福岡市の家庭から出るごみは2022年度、1日あたり約780トンに上る。毎晩約600人の作業員と約190台の収集車が連日、街中を巡って集めている。
車体が大きい収集車は普通車向けの駐車場には止めづらいため、休憩時には広い駐車場がある大通り沿いのコンビニ店に集中しやすいのだという。作業の効率上、20分の休憩を3回とる運用が一般化していて、同協会の森山清近理事長(64)は「車が入れ替わり訪れることで、『ずっとコンビニ店にいる』と思われてしまうのでは」とみている。
困り果てた協会は昨年、市に対応を求めた。市側は今年に入って郊外の清掃工場に休憩スペースを設けた上で、8月からは区役所や博物館、公園など約30施設の駐車場も使えるようにする方向で調整している。広報紙で市民に現状を伝えることや、コンビニ各社への協力要請も検討中だ。
◆理解求める業界
業界には、作業員の労働環境を守れなければ、将来的に深刻な人材難に陥るという危機感がある。戸別収集という労働集約型産業の特性上、無人化や機械化は難しい。各社はハローワークでの求人などで従業員の確保に努めるが、深夜から早朝までという勤務時間も敬遠されがちだという。
森山理事長は「働き手が減り、人材の奪い合いが社会で進む中、休憩の取りやすさは仕事選びの基準になる」とした上で、「作業員が安心して働ける環境を守るには、市民の理解が欠かせない」と訴えている。
女性採用やデジタル化で人材難対策
業界の中で、人材難は全国共通の課題となっており、女性の登用や新技術の導入に活路を見いだす動きも広がっている。
東京都江東区は昨年、女性だけの収集チームをつくる実験を行った。かかる時間は男性とほぼ変わらず、住民からねぎらわれる場面も増えた。業界団体によると、加盟50社の作業員計約4000人のうち、女性は5%。担当者は「加盟社に女性が働きやすい環境整備を呼びかけたい」と話す。
タブレット端末で収集車同士が位置情報を共有することで、手の空いた車が「回収待ち」のごみを効率的に集められるようにしたのは神奈川県座間市だ。集積所と焼却場を往復する回数を約2割減らせたという。
自治体の清掃事業に詳しい立教大の藤井誠一郎准教授(地方自治論)は「市民が収集事業に敬意を持たなければ、事業者の意欲や公共サービスの質の低下につながる恐れがある」と指摘し、自治体にも労働環境改善に関与するよう促す。
引用元: ・政令市で唯一、福岡市の「夜のごみ収集」ピンチ 深夜のコンビニ休憩に「サボり」通報増加中 [PARADISE★]