その理由は、本来なら、明確な形を伴って表れるはずである。例えば、2012年に中国人の対日感情が急激に悪化したが、それは当時の野田佳彦民主党政権が、尖閣諸島を国有化したためだった。
ところが今回は、そうした明快な事由がないのだ。それなのに、まるで「突然変異」のように、中国人が日本に対して角(つの)を立て始めた――。
中国ウォッチャーとして、推定できることはある。それは、次のような三段論法だ。中国経済がますます悪化している→人々がストレス解消をスマホのSNS動画に求める→日本批判のSNS動画が大量に出回る。
実際、日本人として見るに堪えないような動画が、中国のSNS上で大量に流布している。中国当局は、習近平政権の悪口をアップしようものなら「秒殺」(1秒で削除)するのに、まるで根拠のない日本叩きの動画に対しては、実に腰が重い。
今年6月に蘇州の日本人学校関係者が襲われ、9月には深圳の日本人学校の10歳の邦人児童が刺殺された。この頃には、「日本人学校は対中国スパイ養成学校」といった無茶苦茶なSNS動画が、大量に拡散されていた。仕事にありつけなくてムシャクシャしている失業者が、そうした動画を見て、「反日無罪」のような気持ちを抱いて犯行に及んだ可能性もあるのだ。
このため、日本はそうしたデマ動画を取り締まるよう、中国側に要請している。石破茂首相は、10月10日にラオスで李強首相と会談した時も、11月14日にペルーで習近平国家主席と会談した時も、重ねてそのことを伝えている。北京の金杉憲治駐中国日本大使も同様だ。
それでも、日本の外交関係者に聞くと、中国側は馬耳東風だという。中国政府としては、多くの国民が不景気でムシャクシャしている中で、ほとんど唯一の楽しみであるSNS動画まで取り締まってしまうと、国民の「怒りの矛先」が中国政府に向かうのではと懸念しているのだろう。
対日感情を好転させるためにできること
そうした中、日本が取れる施策として、いっそのこと中国人の「ノービザ観光」を解禁してはどうだろう?(中国は11月30日に日本人の「ノービザ観光」を解禁した)
そんなことをしたら大量の中国人が日本へ入国し、かつ帰国しなくなるという反論が出ることは分かっている。
だが、「一度日本を訪れた中国人の多くは親日になる」という経験則もある。実際、今回の調査には、中国人に対する「渡航経験別日本に対する印象」という項目もあった。「渡航経験あり」という中国人は、日本に対して「良い印象を持っている」13.4%、「どちらかといえば良い印象を持っている」42.2%、「どちらかといえば悪い印象を持っている」33.2%、「悪い印象を持っている」11.2%だった。つまり、「日本肯定派」が55.6%と、過半数を占めるのだ。
それに対し、「渡航経験なし」という中国人はそれぞれ、0.2%、2.6%、44.6%、52.6%だった。こちらの「日本肯定派」はわずか2.8%に過ぎない。
日本への渡航経験によって、これほど顕著に差が出るのである。そのため、次のような三段論法が成り立ちはしないだろうか。訪日中国人を増やす→親日中国人が増加する→中国政府の対日政策が宥和する。
周知のように、来月にはアメリカでドナルド・トランプ政権が発足する。どうも究極の「アメリカ・ファースト政権」になりそうだし、わが石破政権との相性も、イマイチのように映る。
つまり、これからはますます、日本は自分で自分の身を守らなければならないということだ。それなら、「最大の脅威」である中国に対して、「硬軟織り交ぜる」べきではないか。
「硬」は、言うまでもなく、日本防衛をこれまで以上に堅固にするということだ。前任の岸田文雄政権は、5年で43兆円という防衛予算や反撃能力強化などで、中国に対抗していくレールを敷いた。
一方で、「軟」にあたるのが、中国人の「親日意識」を高めることだ。もちろん、日本のマンガやアニメなども有用だろうが、やはり百聞は一見に如かずである。大勢の中国人に日本を見てもらい、日本を好きになって帰ってもらうことも、広義の「日本の防衛」になると思うのである。
引用元: ・目立った材料はないのにこの1年で「劇的悪化」した中国人の対日感情、背後にあるものの“正体” [12/7] [昆虫図鑑★]