https://news.yahoo.co.jp/articles/371e017bc93e8a9e5784a075cd1596c5d5a915e4
沖縄に対する中国の外交アプローチや各種の浸透工作が急速に活発化している。
その契機とみられるのは、昨年6月1日、習近平主席が発した、中国と沖縄の「交流」を強調する発言だ。彼の意を忖度した中国の各部門がこぞって沖縄に介入し、日本の沖縄領有に疑念を投げかけるプロパガンダも盛んに流されている。
辺野古新基地問題等で日本政府との摩擦を抱える、沖縄につけ込む中国。ルポライターの安田峰俊氏が、中国政府による「対沖縄工作」の実態に迫った。
引用元: ・沖縄に中国スパイが……?習近平の「一言」がきっかけで、中国共産党が沖縄を狙い始めた [662593167]
■沖縄に中国スパイが……?
中国はインテリジェンスと海洋侵略のプロフェッショナルを、対沖縄作戦の前線に送り込んでいるのは、前編記事『「沖縄は独立したがっている」「琉球人は中華民族だ」…中国が進める「沖縄工作」の最前線』にて報じた通りだが、より剣呑な事実も判明している。中国の「スパイ事件」として国際問題化した組織の関連団体のメンバーが県庁に接近し、玉城知事や照屋義実副知事との接触に成功していることだ。
一昨年末、中国が日本を含めたすくなくとも世界53ヵ国に、相手国の政府に無断で自国警察の海外拠点(通称「海外派出所」)を設置していたことが判明するというスキャンダルが持ち上がった。これらの拠点の多くは、各国に展開する在外中国人の同郷会(日本でいう在外県人会)が受け皿だ。
彼らは在外中国人の運転免許証の更新業務を手掛けていたほか、一部では海外在住の反体制派中国人の監視や脅迫をおこなっていたと報じられている。
日本においても、東京・秋葉原に福建省福州市公安局の海外拠点が存在したことが判明している。
こちらの運営元であり、警視庁公安部の家宅捜索を受けたのが、福州市出身者の同郷団体である日本福州十邑社団聯合総会(日十聯)だ。
姉妹組織として、沖縄の琉球福州十邑同郷会(琉十同)も存在する。
沖縄にはどちらの団体に所属する中国人もいる。そして、日十聯のメンバーが照屋義実副知事と、さらに琉十同の会長の楊氏(58歳)が玉城知事とそれぞれ接触していることが、取材を通じて判明した。
「玉城知事とは、それまでも県のパーティーなどで顔を合わせたことがありました。ただ、直接話をしたのは昨年7月6日の知事訪中の際です。『上』の方から言われ、わざわざ福州に行きました」
那覇市内の琉十同事務所で、会長の楊氏に直接取材したところ、そうした証言が得られた。
彼女は福州市の党幹部の家庭の出身で、1992年に来沖。県内の日本人男性と結婚し、日本国籍を取得した。やがて2010年代半ば、故郷の福州市政府が習近平政権の外交政策に呼応して開いた「一帯一路セミナー」に参加したことで市政府と縁が深くなり、2018年に琉十同を結成したという。楊氏はこう続ける。
「例の海外派出所の話も、最初は私たち琉十同に提案されました。福州市公安局からではなく、市の華僑関連業務の部門(外事僑務辦公室)から別の同郷会を介して、沖縄に中国警察の海外拠点をつくらないかと話が来たんです。ただ、危ないことはしたくないので断りました。私たちはスパイじゃない。悪いことはしません」
もっとも、彼女の自覚の有無にかかわらず、十邑系の両組織はともに、「根」がインテリジェンス機関に通じている。
彼らの元締めは、1990年にシンガポールで設立された世界福州十邑同郷総会(世福総会)だ。
■習近平に連なるルートが
加えて十邑系組織の関係者らの目標は、彼ら自身が沖縄県庁幹部に接近することではない。那覇市内の経済筋からは、こんな話も聞こえてくる。
「経済ルートで県庁に食い込んでいる日十聯のメンバーが、世福総会会長の呉換炎を玉城知事に面会させるべく動いています」
仮に両者の面会が叶った場合、仲介者の中国側でのランクは上がる。その立場で県庁にさらに食い込み、「地域外交」に影響力を及ぼしていく――。こうして中国の対沖縄工作はさらに一歩、コマを進めることになる。
ちなみに世福総会は、現政権下において他の同郷会組織よりも政治的に重要な存在だ。理由は「習近平さんから応援されている団体」(楊氏)であるため。同団体は、習近平と直接つながるパイプを持っているとみられる。
これには過去の経緯が関係している。中国側で刊行された習近平の部下の回顧録『習近平在福建』によると、当初の世福総会は台湾の中華民国政権を支持する傾向が強く、大陸側の福州市政府には冷淡だったという。
この状況を憂慮したのが、当時福州市の党委書記だった習近平だ。1994年、彼はそれまで海外で開かれていた世福総会の第3回大会を福州市に誘致。みずから大会顧問に就いたほか、十邑商人の歴史を記した書籍の主編者にも名を連ねて、彼らの取り込みを図った。
結果、世福総会は台湾側から大陸側に寝返る。つまり同組織は、習近平がみずから「統戦工作」を成功させた若き日の手柄の象徴なのだ。
ちなみに彼は昨年6月、古書の版本を収蔵する中国国家版本館を訪れた際、こう発言している。
「私が福州で働いていたとき、琉球館と琉球墓園を知り、琉球と中国の往来の歴史がとても深いと知った」
中国の対沖縄工作の活発化は、この発言がきっかけとみられている。
実は習近平は1991年、那覇市の市制70周年イベントに参加するため、福州市と友好都市提携を結ぶ同市を訪問した経験がある(2001年にも再訪)。
1991年当時、那覇市では中国風庭園「福州園」の建設、福州市でも往年の琉球王国の出先機関だった琉球館の復元プロジェクトが進められていた。習近平がこの双方に深く関与した結果、那覇市内の福州園は、いまや中国側からは「習近平ゆかりの地」として認知され、訪沖した中国要人がほぼ必ず「聖地巡礼」に訪れる特殊な場所と化した。
近年の沖縄介入も、十邑系同郷会の統戦協力も、すべては習近平が40歳前後の時期、福州時代の仕事が発端なのである。
いっぽう、ここで不思議なのが、最高指導者の大号令のもとで各部門が競って浸透工作を実行している中国に対する、沖縄県庁の姿勢だ。
怪しげな工作の数々を黙って迎え入れているようにも見える彼らには、いかなる思惑があるのか。
疑惑だらけなのに閉鎖は拒否