◆物価高の一因
「誰がやっても難しい、厳しい状況。チャレンジングな仕事であり、過去の経験をいかして挑んでみたい」。植田氏は27日の所信聴取で、就任に向けた心境をこう説明した。まず向き合う課題は、国債を購入することで低く抑えてきた長期金利の操作だ。
日銀は2016年9月、短期金利に加え、国債を購入することで長期金利も低く抑える異例の政策を開始。昨年ごろからは海外での金利上昇に伴い、日本の金利にも上昇圧力が強まったため、日銀は金利を抑えこもうと国債を大量に買い入れる事態に陥った。特に昨年12月以降に加速し、今年1月は1カ月で約23兆円と過去最高の購入額だ。金利を低く抑えると円安になりやすく、今の物価高の要因にもなっている。
植田氏は長期金利の操作が「さまざまな副作用を生じさせている面は否定できない」と認める。
日銀の国債保有は昨年に発行残高の5割を超え、564兆1000億円(簿価、昨年末時点)に達するが、当面は保有する国債を減らすどころか購入を抑えるのも困難だ。正常化の局面に入ると、金利がどこまで上昇するか見通せないためで、バランスを見ながら購入を続けざるを得ない。
日銀が保有国債を売ろうとすれば、歩調を合わせて民間の金融機関も国債を売る動きが強まるため、金利が跳ね上がるきっかけになりかねない。植田氏も「国債を売却するオペレーション(市場操作)はないだろう」と述べた。東短リサーチの加藤出いずる氏は「新総裁の在任中に国債を減らす段階に行けるかどうか。長い道のりになる」と話す。
持ち続けるリスクもある。日銀が長期金利の上限を引き上げれば、金利が上昇し国債価格は下落し、評価損が膨らむからだ。黒田総裁は今月3日の衆院予算委員会で、保有国債の評価損が約8兆8000億円生じていることを明かした。
◆67社の間接的主要株主
日銀が国債と同時に大量に購入してきた上場投資信託(ETF)をどうするかも難題だ。ETFは幅広い株式に投資する金融商品。返済される年限の決まっている国債と違い、ETFは売らない限り日銀が持ち続けることになる。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏の試算によると、23年1月末時点で、日銀が間接的に10%以上を保有し主要株主になっている企業はファーストリテイリング(19・9%)や京セラ(15・5%)など67社。井出氏は「日経平均株価が2万円を割るぐらいに下がれば、日銀は含み損を抱える」と試算する。
日銀が持つETFは時価で50兆円ほど。過去に日銀は保有株式を年約3000億円ペースで売却すると表明し実施している。仮に同じペースで売却しても170年近くかかる計算だ。植田氏も所信聴取でETFについて「今後どうしていくかは大問題」と危機感を示す一方、「具体的に言及するのは時期尚早」と述べるにとどめた。
東京新聞 2023年2月28日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/233581
引用元: ・膨張しすぎて170年かかる? 日銀新総裁、多難な道のり 国債、投資信託どう対処するか [蚤の市★]