県東部に位置する安芸市の安芸漁港は1年を通してシラス漁が盛んに行われている。しかし、近年の漁にはある異変があるという。
ベテラン漁師からは「(シラスは)とれん。ことしは余計とれない。心が折れた。やる気もゼロ」という声が聞かれ、また40年間、シラスを水揚げしてきた女性は「ずーっととれない。(これだけの不漁は)初めて。生活が大変」と語った。
県水産試験場によると、県内の主な漁港4カ所で、2024年に水揚げされたシラスは平年の約3分の1にあたる299.4トン。これは統計をとり始めた1985年以降過去2番目に少なくなった。(1番は1999年231.8トン)
安芸漁港では船を出しても全くとれない日が続く中、燃料の高騰が追い打ちをかける。「漁師が子供を育てていくには、こういう状況が続くと厳しい」と女性は嘆く。
シラスの不漁により競りの落札価格は高くなり、業者からは「相場が上がって原価が上がるから売れない。スーパーもしんどい。飲食店も」と悲鳴の声が上がっている。
香南市のシラス加工販売業者「土佐角弘海産」は地元の漁港から仕入れたシラスを釜湯でしたり、天日干しにしたりして主に関東や九州に出荷している。
しかし、土佐角弘海産の北垣博則社長は「この3年間ずっとシラスが減少している現状。スーパーや小売店に出す量も確保できない。確保できなければ売り上げも上がらない」と話し、資材や運送費の高騰もあり、2023年と2024年の秋に出荷価格の値上げに踏み切った。
北垣社長によると、「シラスはものによっては落札価格が2倍近い金額になっている。インフレの世界になってきているので、スーパーに並べても売れ行きが悪くなる。非常に悪環境になっている」という。
土佐角弘海産で5年前から毎週土曜日に販売しているシラス丼は、どろめ汁がついて500円だったが、段階的に値上げし今は682円となっている。
値上げの波はスーパーにも及んでいる。高知市のサニーマート山手店では、シラスの不漁により「ちりめんじゃこ」が2022年に比べ15~20%値上がりしている。
客からは「おひたしとかにじゃこを入れていたが、今は入れない。高い」という声が聞かれた。
水産バイヤー歴30年のサニーマート水産担当・山中道春さんは「ここまで水揚げがないのは過去にない。ちりめんじゃこが安定して毎日届けられるか、非常に見えにくい状態になっていて困っている」と語る。
シラスだけでなく、室戸市のキンメダイも歴史的な不漁に。さらに、高知沖でとれる天然ブリの漁獲量も減り店頭には県外産が並んでいる。
県内4つの漁港におけるシラスの水揚げ量を見ると、2015年は1327トンあり、以降、だいたい1000トンを超えて安定的に推移。しかし、2022年に466トンと急激に減少し、2023年も不漁に。2024年は11月末の時点で299トンと、過去10年で最も少なくなる見込みだ。
この原因について県水産試験場に聞くと「黒潮大蛇行」というキーワードが浮かび上がってきた。
日本の南には「暖流黒潮」が流れている。シラスの親・イワシが三陸沖から黒潮の内側を通って房総半島、紀伊半島沖を通過し高知沖で産卵していた。
しかし2017年から海の環境に変化が起き、黒潮のルートが大きく変わるようになった。これを「黒潮大蛇行」と呼ぶ。
黒潮がこれまでのイワシの通り道をふさいでしまい、イワシは関東の沖合で産卵して三陸沖に戻るようになった。このため、これまで高知沖で産卵していたのができなくなってシラスが減った。
また、高知沖ではシラスだけでなくキンメダイやブリも不漁となっているが「黒潮大蛇行」により、食物連鎖・餌場・魚の回遊ルートが大きく変わった。
これが様々な漁に影響を与えていて、いつもとれる魚がとれなかったり逆にとれなかった魚がいきなり豊漁になったりといった現象が全国で起きている。
「黒潮大蛇行」は珍しい現象ではないが、2017年から7年余り続き、これは観測史上最長となっている。「黒潮大蛇行」は年明け以降も続き、県水産試験場は全国的に漁の異変がしばらく続くとみている。
引用元: ・【気候変動】シラスの水揚げ量が平年の約3分の1に・・・“いつもとれる魚がとれない ”歴史的不漁の背景に「黒潮大蛇行」