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CoCo壱の価格設定に不満が出ている理由とは……(写真:ponta2012/PIXTA)
「CoCo壱、高い」というXの投稿が、ひそかに話題を呼んでいる。
ここ最近、CoCo壱(ココイチ)こと「カレーハウスCoCo壱番屋」の値段上昇はネット記事を中心に定期的に話題になる。そのたびに筆者が思うのは、問題は「CoCo壱が高いか安いか」ではないことだ。問題の核心は、「なぜ、CoCo壱を高く感じてしまうのか」ということにある。
そこで、消費者心理の観点からCoCo壱の値段について考えてみたい。
CoCo壱カレーに染み付いた「高い」というイメージ
話題を呼んだ投稿の趣旨は「CoCo壱のカツカレーにチーズをトッピングし、そこにツナサラダを付けただけで2000円を超える」というもの。合わせて、ランチタイムなのに店内には投稿主しかいなかったようで「客足が遠のくのも納得」というようなことも書かれている。
これに対しては「トッピングをするから高くなるのだ」という反論が一定数わいており、これは正論ではある。日本全体でインフレが進み、外食1回で1000円を越すのは日常茶飯事。CoCo壱のプレーンカレーは都心部で646円(税込・以下同)で、確かに取り立てて「高い」わけではない。その意味では、CoCo壱だけを「高くなった」というのも、かわいそうな話かもしれない。
一方、「ただのカツカレーにチーズをトッピングしただけ。しかもライスの量は減らしているから、実際に高い」という、投稿主を擁護するコメントもある。
そして、筆者が見ている限り、「CoCo壱は高くなった」という声は、他の飲食チェーンよりも多いようなのである。筆者も本媒体で何度かCoCo壱の値上げについて書いているが、それに対するコメントでは「高すぎる」という意見が圧倒的である。
なぜかCoCo壱は「高い」というイメージが染み付いているようだ。いったい、これはなぜか。
CoCo壱は「客単価を上げ、客数減少を補填している」
大前提として、CoCo壱の経営状況や値上げの状況について簡単にまとめておこう。
カレーハウスCoCo壱番屋を運営する壱番屋の2026年2月期中間決算によれば、CoCo壱の全店売上高は前年同期比で2.7%の増加。一方、客数はマイナス5.4%、客単価は8.1%の増加である。
簡単にいえば、「客単価を押し上げ、減った客数分を補填している」というのが現在のCoCo壱の姿だ。
実際、CoCo壱は2024年8月に値段の改定を行い、最もシンプルなメニューであるポークカレーは東京都・神奈川県・大阪府で591円から646円と55円の値上げ。その他の地域では570円から646円と76円の値上げになっている。これだけでなく、CoCo壱は2019年から短期スパンで断続的に値上げを行っている。
企業側としては「利益」が重要であり、本業での儲けを示す営業利益は前年比5.5%増加なので、取り立ててこの選択が「失敗」だったわけではない。冷静に見ると、CoCo壱の戦略はインフレ下における「正当な戦略」であり、それについてあーだこーだ言われる筋合いはない。経営判断として見れば、きわめて教科書的で、まっとうである。
引用元: ・「CoCo壱、高い」のブーイングはなぜ起こる? "贅沢していないのに割高"と思わせるものの「正体」 [582792952]
ところが、CoCo壱はイメージとして「高すぎる」と思われている。ここに、理屈と実感の断絶がある。
CoCo壱番屋店舗外観
チェーン店なのに「高い」という印象を持たれてしまうのは痛いところだ(写真:筆者撮影)
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なぜ「高い」「損をしている」と思われてしまうのか
なぜ、CoCo壱は「なんとなく高い」と思われているのか。
先ほども述べたように、CoCo壱の価格は、単品で見ると極端に高いわけではない。近年では牛丼チェーンもカレーを提供することが増えているが、それらの値段は400〜700円ほど。CoCo壱のカレーがこの範囲を外れているわけではない。むしろ「正当な値段設定」ともいえる。
ただ、ここでの落とし穴は、CoCo壱では「カスタマイズ」が当然のことになっているという点だ。
実際の注文の多くは、プレーンカレーだけでなく、それに、肉や揚げ物、野菜、それにチーズなどを足して行われる。トッピングの値段は90円のものから、果ては600円を超えるものまである。
CoCo壱のトッピングメニュー
CoCo壱のトッピングメニュー。最も高いものは600円以上する(画像:公式HPより)
結局プレーンカレーはあくまでも「プレーン」であって、それが満足できる商品になるためには、結局上乗せで数百円を支払わなければいけなくなる。しかも、CoCo壱のカレーにとって「トッピング」は、他店のカレーとの最も大きな「差別化」ポイントであり、欠かせないものである。
CoCo壱は確かに「最低限」では高くないのかもしれないが、「標準的に満足したい選択」をすると自然に高くなる。
重要なのは、消費者心理から見れば、CoCo壱でのトッピングは「贅沢したから高い」のではなく、「普通に満足しようとすると高い」という感覚を生み出してしまっているのではないか、ということ。要するに、「普通なのに割高」なのだ。
カレーとトッピングがよほどの「特別感」を生み出してくれるならば、ある程度の値段でも消費者は納得するだろう。しかし、そうではないところに、CoCo壱の問題がある。「なんとなく損をしている」気分になるのだ。
「選択」という名の労働が顧客満足度を下げる
もうひとつ、「なんとなく高い印象」を生み出しているのが「選択肢の多さ」だと思う。先ほどから述べている通り、CoCo壱のトッピングは店のウリで、あらかじめメニューをしっかり用意するのではなく、「客に選ばせる」設計の店になっている。トッピングだけでなく、ご飯の量や辛さなど、さまざまに選択肢が多いことがCoCo壱の価値のひとつである。
ただ、ここが難しいところで「選択肢の多さ」は弱みにもなりうる。
心理学者のバリー・シュワルツが「選択のパラドックス」と命名した現象はこれをよく表している。シュワルツの言ったことを私なりにまとめると「選択肢が多すぎると、決断に多くの時間と脳内での処理が必要になる。さらに、決断した後も『これでよかったのか』という後悔が残り、最終的に満足度がさがる」ということになる。客にとっては、「選択という名の労働」を強いられていることになり、満足度が下がる。
これはまさに、CoCo壱で我々が経験していることではないだろうか。
マズいからコスパが悪いのだ
特に、CoCo壱はチェーン店でもあるから、客としては、なるべくめんどくさい手間を省いて楽に食べたいと思うだろう。本来、チェーン店は「考えなくていい」ことに価値があるはずなのだ。
にもかかわらず、すべての選択を自分でしなくてはいけないCoCo壱には、あまりいい印象が持たれないのではないか。それに、自分で選択した後、目にするのは、かなり高い値段。全体のイメージが下がるのも、納得なのである。
CoCo壱番屋店内
電子メニュー一覧から注文を決めるのにもひと苦労なのかも(写真:筆者撮影)
価格と満足度のバランスを見直す時期にきている
CoCo壱は、売り上げ・利益は、客単価の増加でなんとか補填できている状態だが、消費者心理から見ると、危険な状態に入りつつあるかもしれない。
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2026年2月期中間決算説明会資料では「(客足の)回復に向けた施策や新規顧客層にアプローチするための施策、QSCの向上に取り組んだものの、当中間期は前期比5.4%減となった」という。それだけ、顧客にとっては、CoCo壱自体を忌避する傾向が強まっているといえよう。それは、ここまで書いてきたような「なんとなく割高で、満足度が低い」感じを生み出してしまう、店自体のシステムにあるのかもしれない。
客単価の向上には限界があり、客足が減り続ければ、いずれは減益してしまう。その意味でも、やはりCoCo壱は「顧客にとってのCoCo壱の価値」を見直す時期に来ている。いわば、価格と納得度のバランスをよくよく考える必要がある。その際、「普通の満足で割高」「選択のパラドックス」といったことは重要な観点になってくるはずである。
そして、日本全体でインフレが進み、商品単価を上げざるをえない現在、この「価格と満足度のバランスをどう保つか」はすべての外食企業にとって取り組まざるをえない課題である。
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