■犬との交雑が進み純粋なディンゴは絶滅の危機と考えられて来た
オーストラリアに住む野生のイヌ科動物であるディンゴは、5000?12000年前に同地にやって来たと考えられています。
ディンゴは遺伝的に犬(イエイヌ)とは異なるのですが、イエイヌとの交配は可能です。
オーストラリアでは、野生のディンゴと犬の交雑が頻繁に起こっていると考えられていました。
1980年代に開発された頭蓋骨測定テストと、1990年代に開発されたDNAテストによって、オーストラリアでは純血のディンゴが減少しており、
特に東部では純粋なディンゴはほとんど残っていないとされました。
一部の州でディンゴは絶滅危惧種に指定され、ディンゴの頭数減少の原因は野生化した犬による捕食と交雑であるとされたそうです。
この考えに基づいて、オーストラリアの野生の環境で暮らしているイヌ科動物に対して、同国のほとんどの法律や政策では
「ワイルドドッグ(野生の犬)」という表現が使われるようになりました。
絶滅危惧種のディンゴではなく「野生の犬」と表記されることで、これらイヌ科動物は家畜を襲う害獣と見做され、駆除の対象となります。
しかしこの度、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学・生態系科学センターと、アメリカの米国国立ヒトゲノム研究所の研究チームによって、
これらの見解を覆す研究結果が発表されました。
■新しいゲノム検査でほとんどのディンゴは純血種と判明
この度の研究チームによる調査では、新しいゲノムワイド検査を使って野生のディンゴ307頭と、飼育されているディンゴ84頭のDNAを分析しました。
今回の調査では、195000のDNAマーカーが使用されました。
過去に「ディンゴと犬の交雑が進んでいる証拠」とされたDNAテストで使用されたDNAマーカーはわずか23でした。
DNAマーカーとは、種や集団、個体間の違いを調べることができる特定のDNA配列のことで、DNAマーカーが多いほど
より多くの情報とより正確な検査結果が得られます。
さて、この検査の結果、307頭の野生のディンゴのほとんどは純粋なディンゴでした。
以前の検査方法では、ビクトリア州のディンゴのうち純血の割合は約4%とされていたのですが、今回の検査では検査したディンゴの87.1%が純粋なディンゴで、
6.5%が戻し交配の個体たち(いったん犬との交雑が起こったが、その後ディンゴ同士での繁殖が続いた個体)でした。
ビクトリア州同様に、ディンゴと犬の交雑種が蔓延していると考えられていたニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州では、
59%が純粋なディンゴで18%が戻し交配の個体であることがわかりました。
北部、南部、西部では、ディンゴとイエイヌが交雑している証拠はほとんど見つからなかったそうです。
※略
またこの研究では、オーストラリアには地域別に少なくとも4つのディンゴの品種が存在する証拠が発見されたといいます。
■ディンゴを「野生の犬」として扱うことの何がいけないのか?
オーストラリアのディンゴの多くは、イエイヌとの交雑種で純粋なディンゴは絶滅の危機に瀕しているという従来の考えが誤りであったことが、この研究からわかったそうです。
しかし現在のオーストラリアの害獣政策は、自然の中に住んでいるイヌ科動物は野生化した犬、または犬とディンゴの雑種であるという説に基づいて立てられており、
家畜への襲撃を防ぐためにディンゴの繁殖シーズンには、空中から毒餌を撒くという駆除方法が取られて来ました。
これは言うまでもなく、野生のディンゴの生息にとって大きな脅威となります。
本来、野生のディンゴは小型草食動物や爬虫類などを捕食するので、羊など脂肪の多い肉をうまく消化することができません。
ディンゴは、オーストラリアの侵略的外来種とされる猫やキツネの捕食者でもあります。
ほとんど家畜を襲うことのない野生のディンゴを駆除するのは、家畜保護に意味がないだけでなく、自然の生態系を崩すことにもなります。
研究者はこの点を指摘し、まずはディンゴと野生の犬を区別して現在の政策の見直し、ディンゴの保護に取り組むことの必要性を訴えています。
※略
野生動物が駆除されることは本来あるべき生態系のバランスを崩し、環境破壊にもつながって結果的に人間の生活にもさらに大きな悪影響となります。
最新の技術によって得られた知見が、このような間違いを訂正するために活かされるよう願わずにはいられません。
※略
引用元: ・【生物】イエイヌとディンゴの混血は想像以上に少なかったという研究結果 交雑が進み純粋なディンゴは絶滅の危機という通説を覆す [ごまカンパチ★]