そう話すのは、網野幸代氏(30代、仮名)。妊娠を機に辞めるまで関西の大企業で受付業務を担当していた彼女は、現在、自宅で美容系の資格を活かしながら仕事をし、家族で暮らしている。幼児を養育する母親でもある。
網野氏の身体には、大小合わせて7つのタトゥーが入っている。トータルな身体像があったわけではなく、彫りたいときに好きな絵柄を入れてきた。したがって、これからもきっかけさえあればタトゥーが増える可能性は「なくはない」のだという。
網野氏が最初に身体に墨を入れたのは、22歳のときだ。
「母の命日にお墓参りに行って、その帰りに彫り師のところへ行ってタトゥーを入れました。母は私が中学生のころに癌で亡くなったんです。」
「タトゥー=怖い人、という紋切り型のイメージは、必ずしも当てはまらないと思っています。ただ確かに、ママ友のなかには遠巻きに私をみて軽蔑した眼差しを送ってくる人もいますし、外見で評価を下げられる事実があるのも確かです」
「私個人はタトゥーを後悔していませんが、周囲に積極的に薦めることは絶対にありません。ライフステージが変わるごとに、タトゥーによる弊害が出てくることもあり得ます。むしろ、タトゥーのデメリットをすべて理解してなお入れたいと思えないのであれば、見送るのが最適解かなと感じます」
筆者の前に現れた相川エリナ氏(30代、仮名)は、目が合うなり深々と一礼した。当時、相川氏は世界的なミュージシャンが主催するフェスに出演するボーカリストだった。
新人ながら、背中一面に入れたタトゥーと繊細で力強い歌声が織りなすパフォーマンスは、会場に確かなインパクトを残した。その後、音楽番組のレギュラーに抜擢され、楽曲を順調に発表していたが、突如として活動を休止。現在は一般企業のデザイナーとして勤務し、小学生の男の子を育てるシングルマザーだという。
「最初のタトゥーは、19歳の誕生日に入れました。部位は、首の下と手首、それから腰です。
家族にショックを与えたらよくないので黙っていたのですが、ふとしたときに、自宅に遊びに来た叔母に『あ、タトゥー入れたのね』とバレてしまって。叔母は海外のロックミュージックに造詣があり、話のわかる人で、偏見もないので軽い調子で言ってくれたのですが、そこから仲の良い親戚中に話が広まり、結局全員にタトゥーを入れたことがバレました(笑)」
当人にとっては他に置き場のない、祈りにも似たタトゥー。しかし、当然ながら世間は必ずしもその深淵を知らない。現在、小学生の男の子を育てる相川氏は、こんなトラブルに遭遇した。
「ある時期、息子が学校でいじめに遭って悩んでいる時期がありました。相手の保護者は『あなたはこんな入れ墨を入れて、シングルマザーで。親子は似るので、そちら様にも問題があるのではないでしょうか。むしろ私たちが被害者なんです』と捲し立てていました。」
さまざまな経験を経て、相川氏はタトゥーをこのように捉えている。
「自分ひとりで生きていく場合には、何ら支障はないでしょう。着たい服を着るように、どこに墨を入れても基本的には問題ないと思います。
ただ、結婚したり、あるいは母親になって社会的な関係性が新たに構築されるときには、間違いなく足枷になります。実際、私はタトゥーを消そうと思いました。今の私にとって最も大切なのは子どもで、私のタトゥーが原因で彼が不利益に扱われるのが心苦しかったからです。皮膚科のカウンセリングに行ったところ、100万円前後の費用がかかり、治療期間は数年間に及ぶと聞きました。
悩んだ結果、タトゥー除去にかかる費用や期間を、そのまま子育てのために使ったほうが賢明だなと私は判断しました。ただ、その人の職場環境や地域性などによって、除去という選択肢も大いにあると思います。タトゥーを入れるとき、安易に入れたわけではない私ですら、このような悩みにぶち当たるんです」(抜粋)
https://bunshun.jp/articles/-/67334
引用元: ・【社会】「タトゥーは素晴らしい…けど消したい」 タトゥーあるシングルマザーたちの苦悩
こどもでもわかるやろ