「あたりにはイヌがたむろしており、草で対向車が見えず運転すらできない場所もありました」
それが約10年前の姿だった。当時、2014年に水道の汚染問題が明らかになる前のフリントは、凶悪犯罪率が高いことで有名だった。
米連邦捜査局(FBI)のデータによると、2012年にフリント警察に報告された凶悪犯罪の件数は2774件だった。それが2022年には985件まで減った。
「レガシーシティ」(遺産都市)と呼ばれる米国の工業都市は、著しく経済が低迷し、人口が減った。今もその渦中にあるフリントで、ジェネシー郡土地銀行による「クリーン&グリーン」運動が行われている。
イシュメル氏など住民たちは、こういった緑化プロジェクトを通して、空き地の草を刈ったり、庭や公園を増やしたりする活動を行っている。
「身近な場所を美化することで、殺伐さが和らぎます。それだけで気分が晴れます」と氏は話す。
こういった取り組みがもたらすのは、気分的な安らぎにとどまらない。
フリントやペンシルベニア州フィラデルフィア、オハイオ州ヤングスタウンといったレガシーシティの緑化がもたらす影響についての研究から、実際に凶悪犯罪が減少することが繰り返し示されている。
「これは、私の34年の研究生活で一貫して示されていることのひとつです」と、米ミシガン大学公衆衛生大学院教授のマーク・A・ジマーマン氏は話す。
米国の都市を研究対象とした45本の論文を調べたレビュー論文では、都市に公園や林といった緑地があることで、犯罪が減少することが示された。
フィラデルフィアを対象とした研究では、空き地の緑化と銃撃事件の減少に相関が見られた。
ジマーマン氏のグループは、フリントを対象とした研究を行っている。クリーン&グリーンで空き地が手入れされている地区と、空き地が放置された地区を5年間にわたって比較したところ、手入れされた地区の凶悪犯罪は約40%少なかった。
別の研究でも、手入れされた芝生がある区域では、子どもの虐待率が低くなるという結果が出ている。
研究グループは、単なる空き地の草刈りから、公共緑地や公園、アート作品の設置まで、さまざまな緑化方法についても調べている。
専門の草刈り業者を使う取り組みもあれば、住民が自発的に行う場合もある。しかし、どのような形であっても、緑化によって犯罪は減少する。
ただし、ある研究によると、空き地の手入れだけで減るのは窃盗だが、緑地を設ければ凶悪犯罪が減る。そして、参加する住民が多ければ多いほど、その効果は高まる。
ヤングスタウンでの研究でも、専門業者が草刈りをした区域では、手入れされていない区域よりも凶悪犯罪の発生密度が小さくなったが、地域ぐるみで緑化に取り組んでいる区域は、さらに大きく減少した。
また、2015~2018年のフリントの実績を示した研究によると、土地銀行が空き地の所有権を得て管理した場所は、そうでない場所と比べて、重犯罪や凶悪犯罪、銃器犯罪、若者が被害者となる犯罪が少なくなった。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/122500654/
米ミシガン州デトロイトでは、空き地に都市菜園を作る取り組みが行われている。研究によると、このような緑地を増やしたり、空き地の草刈りをしたりするだけでも犯罪率の低下につながっており、米国のさまざまな都市でも同様の効果が見られるという。
引用元: ・【研究が米国で続々】空き地の緑化で凶悪犯罪を減らせる・・・ミシガン大学公衆衛生大学院教授 「これは、私の34年の研究生活で一貫して示されている」