アジアの中でバングラデシュと並んで経済が順調に成長しているとされてきたベトナムで不動産バブルが崩壊し始めた。
ベトナムには日本の昭和時代と同様に土地神話が存在していた。コメを作ってきたアジアの農村には多くの人が住んでいるが、そんな国で経済成長が始まると都市への人口集中が始まる。その結果として都市の住宅価格が高騰する。
ベトナムでも住宅価格が高騰し続けていたが、そこにコロナ騒動がやってきた。世界中で金融緩和が行われた結果、その資金がベトナムにも流入して、それまでも高かった不動産価格がより一層高騰した。場所によっては価格がコロナ前の2倍以上になった。
ベトナムの不動産の現況については次のように理解すればよいだろう。ベトナムの1人当たりGDPは日本の約1/10であるが、不動産価格は日本の1/2程度になっている。現在、ハノイ市やホーチミン市で60平方メートル程度のマンションを購入しようとすると、日本円で2000万円程度が必要になる。一方、庶民の年収は100万円に届かない。マンションの価格は庶民の年収の20倍以上になっている。まさに不動産バブルである。
(略)
農村部に大量の貧しい農民を抱えながら発展する構図は中国にそっくりだ。そして奇しくもほぼ同時期にバブルの崩壊が始まった。
中国では誰も住んでいないマンションが1億戸あると言われている。ベトナムにどれほどの空マンションがあるのかは明らかになっていない。ただ、この秋以降に中古物件の価格が下落し始め、かつ新築物件でも大幅な値引き販売が行われるようになったことだけは事実である。この傾向が続けばいずれ不良債権問題が深刻化し、それが金融システムを不安定化させることも考えられる。
庶民の生活とは遠かった不動産バブル
来年(2023年)の米国と中国の景気も気になる。それはベトナム経済成長が輸出によって支えられてきたからだ。2021年のベトナムのGDPは3626億ドルだが、輸出額は3361億ドルである。輸出額はGDPに匹敵している。
ベトナムの輸出先第1位は米国、第2位は中国である。そのために両国の経済が減速すれば、それはベトナムの輸出産業は大きな打撃を受ける。実際、ハノイ郊外にあるサムスンの工場も操業率が現在大きく低下している。縫製業などでも輸出が急減しており、来年に輸出額が急減する事態は避けられない。
ただ、今回のベトナムのバブル崩壊に救いがあるとすれば、バブル崩壊が庶民の生活に直接影響を与えることはないと思われることだ。ベトナムの庶民にとって都市部のマンションは高嶺の花である。これまでのところ庶民がローンを組んでマンションを購入するようなことはなかった。
建設された多くのマンションは値上がりを期待する業者によって買い占められている。今回のバブル崩壊によって真っ先に傷つくのは、このような業者であると言われている。次は、バブルに踊った建設業者である。ハノイでも労働者への給与の支払いが遅れているために建設がストップしてしまったマンションを見かける。
アジアの奇跡の成長は最終段階に
現在のベトナムの不動産バブルは、中国が北京オリンピックに沸いた頃に似ている。当時も中国の不動産はバブルだと言われた。だが中国当局はバブルを潰すことなく膨らませ続けた。それが中国の奇跡の成長の原動力になったことは確かだが、現在、バブルは強面で鳴らす中国政府をもってしても制御できないほどに膨れ上がってしまった。
北京オリンピックの頃まではバブルに踊ったのは不動産業者と富裕層だったが、それ以降は庶民もバブルに踊るようになった。そのためバブルの崩壊が始まると、庶民までがバブルの犠牲者になり始めた。
それに比べると庶民がバブルに参加していないベトナムでは、中国ほど影響が深刻化することはないだろう。だが、それでもベトナムの経済はこれからしばらく低迷する可能性がある。
ベトナムの1人当たりGDPは3694ドル(2021年)と低い段階にあることから、その後は再び成長軌道に戻ると考えられるが、一度バブルの崩壊を経験すると、不動産を梃子(てこ)にした急激な発展を期待することはできなくなる。
ベトナムは、ベトナム戦争とその後のカンボジア侵攻のために、アジアでは最も遅く経済開発が始まった国の一つである。そのベトナムでもバブルが崩壊し始めた。このことは1960年頃に始まったアジアの奇跡の成長が最終段階に達したことを示している。
引用元: ・アジアの奇跡の成長は最終段階に、ベトナムでも不動産バブル崩壊が始まった [12/17] [昆虫図鑑★]
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