「能登のデマや政治利用、本当に腹立たしい」。“偽被災者“と中傷された地元住民は、「もう一つの災害」に襲われていた
2024年に発生した能登半島地震。被災地のリアルをSNSで発信する男性は、“政治的な論争”に巻き込まれ、誹謗中傷を受けていた。「情報」という名の“もう一つの災害”とは【東大大学院共同調査「能登と情報災害」①】Keita Aimoto
2025年08月27日 6時30分 JST
更新 2025年08月27日 JST
山本太郎議員の投稿に……
1月5日からは、山本太郎参議院議員(れいわ新選組)が能登での活動を報告し始めた。
被災地では当時、人命救助や物資輸送ルートの確保が最優先されていた。与野党6党も同日、渋滞の原因にならないよう「国会議員の視察を控える」ことで合意していた。
そんな中、山本議員は車で現地入りし、松葉杖で被災地を歩く姿や、テントを設営する様子の写真をXに投稿した。
山本議員は「当事者の声を様々聞きとりした」と発信していたが、男性の目には「自分が主役の写真ばかり」と映った。しかし、山本議員の投稿には数万の「いいね」が集まり、支持者からは称賛の声が相次いだ。
こうした行動を擁護するかのように、「渋滞は発生していない」という投稿も見られるようになった。影響力の大きいアカウントが「金沢から七尾に到着。ここまで渋滞もトラブルも一切なし」と投稿した例もあった。
だが、実際に深刻な渋滞が発生していたのは、七尾から先の道だった。
国土交通省の資料にも、震災直後は被災地につながる主要道路の大半が通行不能となり、特に1月6日前後は国道249号(七尾~穴水)に交通が集中したとある。
「このままでは、地元の小さな声が“大きな声”にかき消される」ーー。
その日を境に、男性は自身が目の当たりにしてきた現実や光景を、SNSで積極的に発信するようになった。ミスリードを誘う投稿や、被災者の心を傷つける発信には毅然と反論し、事実を補足した。
だが、男性を待ち受けていたのは、「“能登は放置されている”ことにしたい人たち」からの、信じがたいほどの誹謗中傷だった。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6892d4b9e4b0d3424bc43bed?bk
引用元: ・【情報災害】能登地震被災者、 れいわ や 共産党 の悪質なデマや風評加害に苦しんでいた [158879285]
「能登は放置されている」という主張
震災から時間が経つにつれ、倒壊した家屋の前で、“記念撮影”する人たちが増えた。そんな人たちは決まって、「能登は放置されている」とSNSに投稿した。八幡愛衆議院議員(れいわ新選組)も当選前の2024年5月2日、倒壊した民家の写真をXに投稿し、「被災地をほったらかし」と発信している。
しかし、こうした「放置されている」という表現は、実際の被災地の事情を汲み取っているとは言えなかった。
まず、倒壊家屋や瓦礫の解体・処分にはそれなりの時間がかかる。例えば熊本地震では、全半壊した建物の公費解体と災害廃棄物の処理が完了したのは発災から2年後だった。
加えて、能登では地理的な不便さや宿泊施設の不足により、解体業者の確保が難しいという事情もある。
そもそも倒壊家屋は「ごみ」ではない。所有者の「財産」であり、貴重品や思い出の品も家屋内にある。遠方に避難している持ち主と連絡を取ったり、解体に立ち会ったりしてもらうだけでも相当な時間を要する。
このような事情を無視し、倒壊家屋だけを見て、写真を公開する。そして「放置」と断じる。政治家を含め、こんな発信が広がっていることに、男性は深い苦痛を覚えた。
「被害が甚大な分、復興のスピードは十分ではないかもしれない。でも、私たちはほったらかしにはされていない。政治批判のネタにされるのが極めて不快」
一方、男性のこんな指摘は、能登は“放置されている”や“見捨てられている”と主張する人たちに、「政府や行政を擁護している」と受け取られた。
誹謗中傷は次第にエスカレートしていき、「偽被災者」「工作員」といった言葉が飛んでくるようになった。
「能登ウヨ」という蔑称がもたらしたもの
「被災地では高い醤油しか買えない」と読ませる投稿に、「近くのドラッグストアで安い醤油も売っている」と書き込むと、「頭がおかしい」と罵倒された。「倒壊民家を勝手に晒さないで」と呼びかけると、「政府を批判しないやつはずれている」と突き放された。
批判はあって当然だ。しかし、「行政を陥れる」ことが目的になると、多様な議論を単純化し、被災地の重要な課題を見逃すことになる。その結果、最も困るのは、辛い思いをしている被災者だ。
実際、珠洲市の泉谷満寿裕市長が2024年6月1日、復興計画に関する意見交換会で、「半分思い込みで国会で論争されていることがある。被災地の実情と違うと感じることがある」と指摘している。
男性はそのような環境下で、葛藤を抱えながら、どんな言葉をぶつけられても耐えてきた。だが、ついに心が折れそうになる出来事が起きた。
「能登ウヨ」ーー。「ネット右翼(ネトウヨ)」をもじった「能登に住むネトウヨ」という蔑称が、自分に向けられたのだ。
それは、震災から半年以上が過ぎたある日。地域の孤立を巡る誤った投稿を見つけた男性は、その投稿をX上で訂正し、「政治批判のために能登を利用しないで」と書き込んだ。
すると突然、「能登ウヨ」という蔑称を投げつけられた。輪島で生まれ、輪島で育った人間として、口にするのも嫌な言葉に驚愕した。
相手は与党に否定的な立場の人とみられ、「被災者なのに行政を庇うのか」と言葉を続けた。男性は、自らは野党支持者で、行政への不満も述べていると反論したが、返ってきたのは「肉屋に媚を売る豚」という嘲笑だった。
同様の中傷に苦しんだのは、男性だけではなかった。地元から声をあげていた被災者たちにも、「能登ウヨはアホ」「能登ウヨは自民党支持者」「能登ウヨは陰湿」というひどい言葉が向けられた。
なかには、「『能登ウヨ』炎上が大きくなればなるほど(中略)石川県、能登の復興が遅れているのが可視化、周知されることになるから自民党に対するダメージになる」と、政治的な“利用価値”をあからさまに語る投稿まであった。
こんな状況の中、事態はさらに深刻化する。2025年1月、毎日新聞が「『能登ウヨ』と呼ばれる人たちが行政批判をする被災者をたたいている」という趣旨の記事を配信したのだ。
中傷は今でも続く。最近では、参院選の石川選挙区で自民党候補者が当選した際に、「能登は高齢者が多すぎてまともに頭が働いていない」といった声が飛び交った。これに対し、中能登町出身の立憲民主党・近藤和也衆議院議員(石川3区)は、「能登の方々への非難は勘弁して欲しい。有権者の判断は尊い。さらに傷ついてしまう」とXで呼びかけている。

