https://approach.yahoo.co.jp/r/QUyHCH?src=https://news.yahoo.co.jp/articles/d794fe03285cbd6a3ecfbf68e94e548764e81f70 病死、餓死、自殺が相次ぐ「入管」、“現代の奴隷制”といわれる「技能実習制度」――。日本社会における外国人差別の現状に迫った『外国人差別の現場』(安田浩一著/安田菜津紀著、朝日新書)より、一部を抜粋してお届けする。
引用元: ・「仕事、たくさん。お金、少し」 カンボジア人女性の実習生の落胆 技能実習という名の奴隷制度 [662593167]
このシェルターで、私は少し前にカンボジア人女性の実習生(33)にも話を聞いている。印象に残っているのは、彼女が「富士山を見たい」と何度も口にしたことだった。 彼女にとって富士山とは、日本そのものだった。
「カンボジアにいた頃、テレビやネットの写真で何度も見た。あの美しい山のある国で働くことができると思っただけで気持ちが弾んだ」
日本に行けば必ず目にすることのできるものだと思っていた。だが、岐阜県内の工場で働くことになった彼女は結局、富士山を一度も目にすることなくシェルターで鬱屈した毎日を過ごしていた。
なぜ、職場から逃げてきたのですか? そう訊ねる私に、彼女はその時ばかりは通訳を介さず、たどたどしい日本語でこう答えた。
「仕事、たくさん。お金、少し」
地元のブローカーに6千ドルの手数料を支払って実習生となった。高度な技術を学び、日本人と同等の給与が保証される――カンボジアでは、ブローカーからそう聞かされていた。しかも行き先は「富士山の国」だ。
だが、「日本」は彼女の期待も希望も裏切った。富士山は遠かった。
彼女が働いた縫製工場の仕事は朝の8時半から始まる。ミシンを踏む。アイロンをかける。完成品を収めた段ボール箱を積み上げていく。それが「高度な技術」なのかといった疑問は、すぐに消えた。いや、休むひまもなく働き続けているうちに、考える余裕がなくなった。
仕事を終えるのは深夜になってから。時に明け方近くまで働いた。毎月の残業は200時間を超えた。基本給は月額6万円。残業の時間給は1年目が300円、2年目が400円、3年目にしてようやく500円。しかも毎月の給与から4万円を強制的に預金させられた。通帳は経営者が預かったままで、自身が管理することはできない。
「このまま働き続けては倒れてしまうと思った。もう限界だった」
手荷物だけを持ってシェルターに身を寄せたのである。
■「誰も幸せにしない」制度
それぞれが、それぞれの夢を抱えて日本に渡る。そして少なくない者たちが失望し、落胆し、小さな憎悪を生み出していく。いつまで経っても「豊かさ」にたどり着けない。もちろん富士山にも。
「だから、こうした制度はやめたほうがいいんですよ」と甄凱さんは言う。
「違法が常態化した制度は、たぶん誰も幸せにしない。経営者だって綱渡りしているだけで、いつかは破綻するのですから」


