2026/10/02/ 16:00
父親が酒乱だった女友だちがいる。夫から妻への暴力がDVと名付けられるずっと前の時代、1970年代のこと。飲んでいないときは子どもたちを笑わせたりもする優しさもあるが、酒を飲むと豹変し、妻を殴り、蹴った。暴力は凄まじく、妊娠中の妻を階段から突き落としたこともある。灯油を頭からかけ、ライターをカチカチさせて怒鳴りつけたこともある。彼女のお母さんは、何度も幼い娘たち(彼女は3人姉妹だった)を連れて家出をしようとしたが、その都度、諦めた。頼る実家はなく、子どもから離れる選択肢はなかった。
ある日、いつものように激しいケンカが始まったとき、たまたま家の前を警察官が通った。小学生だった彼女はとっさに家を飛び出し、警察官に声をかけた。「お父さんがお母さんを殴っています、おまわりさん助けてください」。そのときに警察官が言ったことを彼女は一字一句、大人になるまで覚えていた。警察官は家の中の夫の怒声、妻の叫び声を聞きながら、幼い女の子に微笑んでこう言ったのだ。
「夫婦ゲンカでしょう? 大丈夫だよ」
そのときに抱いた深い諦めの感情を、彼女は大人になるまで忘れなかった。というよりずっと、その感情から完全に離れられることはなかった。
もちろん、その当時だって、妻への暴行罪、傷害罪は成立していた。それでも、夫が妻を殴るのは、あまりにも「よくあること」だった。妻を殴ることを犯罪と考える夫は少なく、そもそも経済的に身動きできない状況にあった女性たちを「社会が守る」という発想そのものがなかった。
日本で「ドメスティック・バイオレンス(DV)」という言葉が知られるようになったのは、1990年代に入ってからだ。1992年に「『夫(恋人)からの暴力』調査研究会」というグループを立ち上げた女性たちによって、日本で初めて、夫や恋人からの暴力の民間調査が行われたのだ。回答した女性は約800人。全国から寄せられた声には、夫や恋人からの暴力に苦しむ女性たちの日常が切実に綴られていた。
それらは今読んでも胸が苦しくなる地獄のような日常だ。セックスを拒否したために暴力を振るわれたと答えた女性が3割もいた。暴力を受けた後に性交を強いられ、避妊を拒否され、妊娠し中絶を繰り返す女性も少なくなかった。それでも、このアンケートは大きな扉を開けた。それまで「私の家の中の秘密」だったことが、「女性に対する人権侵害」であることをアンケートは明らかにしたから。女性たちの被害、#MeTooの声は、それから7年後に国による大規模な調査を後押しし、2001年には「配偶者暴力防止法(DV防止法)」が成立することになる。この法律によって、夫から殴られる女性たちに、「そこにとどまらなくてよい」道が生まれたのだ。
……こんなふうに、DV防止法の歴史を追いかけたくなるのも、先日北関東で起きた、元夫が元妻の母を殺した事件が頭の中にこびりついてしまっているからだろう。
報道によれば、女性は元夫からのDV被害を警察に相談していた矢先だったという。今年に入って離婚は成立していたにもかかわらず、元夫が暴力的に女性に執着していたと言われている。ストーカー被害ではなくDV被害と報道されている理由はわからないが、婚姻中から暴力が継続してあったと考えるのが自然だろう。DVとストーカー、どちらも暴力による支配だ。そしてこれは性暴力と同じように、圧倒的に男性が加害者だ。命が奪われる恐怖を味わい、殺されているのはほぼ100%、女性やその家族だ。
いったい、なぜこんな事件が繰り返されるのだろう。ストーカー規制法があってもDV防止法があっても、女性に向けられる執拗な暴力が止められないのはなぜなのだろう。
DV防止法の正式名は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」という。ここで言われる「防止」とは、そもそも暴力を根絶するというものではなく、「起きた暴力がまた起こらないように防止する」という意味だ。全ての法律が完璧ではないように、DV防止法成立当初も様々な問題が指摘されてきた。なかでも強く言われていたのは、加害者男性に対する更生プログラムが義務づけられていないことだった。そしてそれは今にいたるまで変わらない。更生プログラムはあっても、加害者が受講することは義務ではなく、そこに多額の税金が投じられているわけでもない。
それでも、今回の事件が明らかにしたのは、というより、これまで起きた同様の事件が私たちに示唆し続けてきたのは、被害者を暴力の現場から遠ざけるのではなく、加害者自身を暴力から遠ざける必要がある(略)
VOICESネットの声
5ch: ・「お父さんがお母さんを殴っています、助けて」に警察官は「夫婦ゲンカ」と言った 殴る男たちの「更生」の重要性 北原みのり氏
これがこの世で1番ダサい行為
生まれて初めて見た名前。芸人の売名スレを立てるなよ
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